草木図譜 ドクダミ


ヤエドクダミ
八重咲きのドクダミ(ヤエドクダミ)
ゴシキドクダミ
‘ゴシキドクダミ(カメレオン)’
 ドクダミはやや日陰の湿った場所を好む草で、野山や空き地などいたる所で見ることができます。開花期は6〜7月で、ほの暗い木立の下などに咲くドクダミの花の白さには、いつもはっとさせられます。この白い部分、4枚の花弁のように見える部分はじつは本当の花弁ではありません。これは総苞片(そうほうへん)と呼ばれる器官で、そして中心部の黄色い部分、しべのように見える部分はたくさんの花の集合体です。つまりたくさんの小さな花が集まって、ひとつの大きな花のように見える形を作っているのです。なお本当の花、小さなひとつひとつの花に花弁はありません。
 ドクダミは地下茎を伸ばし、そのところどころから地上に芽を出して群生します。葉はハート形で、時として紫色に色付きます。よく知られているように、葉には独特の臭気があります。このにおいは普通は「悪臭」と表現されますが、「悪いにおいではない」と言う人も(少なくとも私の回りには)多いようです。また、ベトナムなどでは料理に使われていますから、やはり一概に「悪臭」と決め付けるわけにはいかないでしょう。
 ドクダミのにおいのもとになっているのは「デカノイル‐アセトアルデヒド」という物質です。この物質には、黄色ブドウ球菌や肺炎球菌、白癬菌(はくせんきん)などの細菌や、ある種のウイルスの活動を抑える力があると言われます。その他にもさまざまな有効成分が含まれ、傷口の止血や再生にも効果があるとされています。このように優れた薬効を持ち、しかも身近な所にたくさん生えているドクダミは古くから民間治療薬としてさかんに用いられてきました。風邪や便秘の治療・高血圧の予防には植物体を煎じた汁を服用し、傷・おできなどには生のままか、火であぶった葉を患部に貼るとよいと言われています。また風呂に入れれば冷え性に、鼻腔に詰めれば蓄膿症に効くと、まさに万能薬です。
 ドクダミの別名は十薬(じゅうやく)で、江戸時代の儒学者・本草学者である貝原益軒が著した『大和本草』には、馬に与えると「十種ノ薬ノ能アリトテ十薬ト号スト云」と書かれています。ドクダミの万能薬ぶりを見るとなるほどとうなずきたくなりますが、牧野富太郎(1862〜1957)はその著書の中で、「ジュウヤクとは実は〓薬(じゅうやく)から来た名である」としています(「〓」はドクダミの中国名)。なおドクダミという和名は、「毒を矯める・止める」という意味を持つとか、あるいは「毒や傷みに効能がある」という意味の「毒痛み」に由来すると言われています。
 ドクダミは日本ではまぎれもない雑草で、わざわざ庭に植えたりする方も少ないことでしょう。しかし、総苞片をたくさん付ける八重咲きのものや葉に乳白色の斑が入るものもあり、これらは珍重されています。この斑入りのドクダミは日本では‘ゴシキドクダミ’、海外では‘カメレオン’と呼ばれているもので、やや強めの日光を当てて乾燥気味に管理すると葉全体が赤みを帯びてとても美しくなります。欧米ではこの斑入りのドクダミはもちろん、緑一色の葉を付ける原種も大切に栽培されているようです。
 ちょっと意外なのは、ドクダミを水草として紹介・販売している欧米のサイトがあること。田圃の畦(あぜ)などにも生育し、時には水際まで進出することもあるので、ドクダミが水を好むことは確かです。しかしこれらのサイトでは水中で育てる水草として紹介しているのです。何年か前に私は水槽にドクダミを入れ、強い照明と二酸化炭素(水草一般の育成に効果があります)を与えて、栽培可能かどうかを試してみたことがあります。数か月間は生長を続けたのですが、私の管理が悪かったせいかいつの間にか消えてしまいました。もう少し工夫すれば長期栽培も可能かもしれません。あるいは水没させないで上部を水上に出すようにすれば、栽培はもっと簡単です。なお日本でも販売されているサウルルスという水草は、同じドクダミ科ではありますが別のハンゲショウ属に属する植物です。


ドクダミ(〓草) 別名/ジュウヤク(十薬・重薬)
学 名 
Houttuynia cordata Thunb.
分 類 
ドクダミ科ドクダミ属
原 産 
東アジア(日本では本州・四国・九州・琉球諸島)、東南アジアなど
タイプ 
多年草
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